清流 平成29年5月17日付

 江戸時代に長州・毛利領だった「周防国」の東端に位置していたのが、吉川氏が治めていた岩国。瀬戸内海に面した穏やかな地でのんびりとした暮らしを想像するが、そうでもない▼関ヶ原の合戦後の仕置で徳川は毛利の取り潰しを図る。驚がくしたのが、毛利領安堵の約束を取り付け、関ヶ原で毛利軍が動かないよう画策していた吉川広家。しかし、大坂城で毛利輝元が東軍に反抗を企てていたというかどで、その約束は反古にされた▼家康は長門と周防の領地を吉川に与えようとした。だが、それでは本家への忠義が立たない。広家は、「毛利が謀反を起こせば自分が成敗するから」と説得して長州の所領が毛利に残る。しかし、江戸期を通じて幕府は長州・毛利潰しを狙っていた▼そうなれば、最初の戦場は岩国。ある種、岩国は常に緊張状態にあり、油断のない国造りを図る必要があった。城を破却しなければならなかった代わりに技術の粋を集めた錦帯橋を創建して領国の国力や結束を示し、教育に力を入れているのは当然だったかもしれない▼さらに鎌倉から続く武家の気風が、公の精神を養い、その家臣、領民から日本の国造りに貢献する若者が多く生まれた。岩国吉川会総会で講演した佐古利南さんの岩国人話は新鮮な驚きに満ちていた。(日刊いわくに「清流」)

清流 平成29年6月30日付

 世の中を大混乱させ、人々をさまよわせた戦国時代。これに終止符を打ったのが天下分け目の決戦・関ヶ原の戦いだ。作家・司馬遼太郎は名作小説を生み出した。これを原作に、岡田准一、役所広司、有村架純ら豪華キャスト出演で映画化。公開日は8月26日に決まった▼吉川の歴史を知る者なら、関ヶ原で広家が重大な役回りを果たしたことを知っている。映画「関ヶ原」でも、さぞわくわくする描かれ方がされているに違いないと思い、資料を調べたが、何と登場しない。登場人物に記載がない▼原作には、ちゃんと記述がある。司馬遼太郎は、広家がやがて徳川の世が来ることを読んでいたと紹介していた。だが、合戦前の周旋や交渉は、派手な軍勢の衝突に比べると、映画の主テーマになりにくい。かくして不戦を貫いた広家の活躍は割愛された▼その合戦は両軍合わせて18万人という世界史上に残る一大戦争ながら、わずか半日で決着した。「裏切り」「寝返り」などと下卑た表現では説明はつかない。事前の調略でほぼ答は出ていたのだ。大東亜戦史をみても、事前外交がいかに重要かがよくわかる▼ドンパチに目を奪われがちだが、老獪な策略によって事態は動いていく。三成では天下は収まらない。広家の行動は天下泰平を求めるものでもあった。(日刊いわくに「清流」)